多様化するケータイ小説と3分化する文学

はじめに

 妄想カテゴリーですので、細かいところは思い込みです。妄想なので断定口調で書いてしまいます。そこらへんをご了承いただけたらと思います。
 文学部の学生はケータイ小説をどう捉えているのかも気になる所。

ケータイ小説の変化

 ケータイ小説と言えば「中高生の恋愛、セックス・レイプ・ドラッグ」だと思うのですが、今はそうでもないらしい。様々なジャンルの作品が登場している。
 例えば、既刊の「呪い遊び」・「死の薬」はミステリーらしい。*1
 新刊の「被害妄想彼氏」は「恋愛・セックス・レイプ・ドラッグ」のいわゆるケータイ小説では無い。 ラブコメらしい。すごい売れた。*2
 同じく最近発売の「夜闇の住人」にはドラキュラのホストが出てくる。現代ファンタジー*3
 同じく新刊の「ご近所探偵トモエ」はミステリーらしい。*4

彼女達は閉じていく

 このようにケータイ小説が多様化すると、ひとつの可能性が失われていく。それはケータイ小説から一般文芸への読者の移動である。
 私はこの移動に僅かだが期待していた。「彼女達がケータイ小説を通じて文字に触れ、他の活字(既存の一般文芸)に興味をもってくれたらいいな」と。「いわゆるケータイ小説に飽きた彼女達が、他ジャンルもある一般文芸に手を伸ばしてくれたらいいな」と。
 しかし、その期待は完璧に崩れ去った。*5おそらく今後もケータイ小説の多様化は進み、様々なジャンルの作品が出てくるだろう。そうなると、彼女達はケータイ小説の中だけで「他の活字に触れたい」「他のジャンルも読んでみたい」という欲望を満たし続ける事が可能である。わざわざ読みづらい縦書きの一般文芸に越境しなくて済む。
 結果、彼女達はケータイ小説から出てこなくなる。

3分化する文学

 ケータイ小説の多様化と彼女達が閉じていく事は、文学に変化をもたらすだろう。その変化とは新たな流派の誕生である。
 今現在、文学には一般文芸とライトノベルの二つの流派を見る事が出来る。そして、これらの流派に属する(これらの作品を嗜好する)ためには乗り越えなければならない壁がある。
 一般文芸の壁は、「難解な表現と言語」である。それを超えなければ、一般文芸の文庫を一冊読むことは不可能である。
 ライトノベルの壁は、「世界観や状況への理解」である。例えばスレイヤーズは魔法と魔族という世界観が理解できなければ、もしくは世界観を理解しようとしなければ、読むことが出来ない。同様に文学少女シリーズも、女の子が本を食べるという状況に疑問を持ってしまうと、読むことが出来ない。
 これらの壁を超えられず、いずれの流派に属する事が出来ない人々は、文学と関わることのない生活を送っている。いわゆる小説を読まない人々である。
 だが、彼女達は、この文学の2分構造を打ち壊した。壁を超えることが出来ない彼女達は、壁の外で自分達の新しい文学の流派を作り出したのである。
 「難解な表現と言語」の壁が超えられないので、会話文主体で情景描写や心理描写を少なくし、読みやすい文書にする。「世界観や状況への理解」の壁が超えられないので、彼女達の周りの世界(=彼女達のリアル)を基本に話を紡いでいく。これがケータイ小説である。
 ケータイ小説は単なるブームではない。一般文芸、ライトノベルに続く、第3の流派の誕生なのである。

メディアワークス魔法のiらんどの提携とは

 こう考えてみると、メディアワークス魔法のiらんどと提携した理由が分かる。これは、ブルーオーシャン戦略に基づく、最高の提携である。
 第3の流派ケータイ小説は、第二の流派ライトノベル同様、一定の市場規模になるだろう。にも関わらず、ケータイ小説文庫版には誰も手をつけていない。文庫版はケータイ小説を求める彼女達のお財布状況にあっているにも関わらずである。
 そんな美味しい市場に、文庫のノウハウを持ったメディアワークスは、コンテンツの所有者魔法のiらんどと共に乗り込もうとしているのである。
 彼らは競合他社のいない肥沃な市場を独占するつもりである。そして、メディアワークスは第2の流派ライトノベルに続き、第3の流派ケータイ小説でも確固たる地位を築くだろう。

当店の悩み

 新たな流派「ケータイ小説」が誕生し、メディアワークスが文庫を出してくる。おそらく今後は他社のケータイ小説の文庫化、文庫での新規創刊も進むだろう。
 そうなると一つ問題が出てくる。…文庫の棚が足りないorz 
 私たちは書店であるから、新たな文学の流派の作品の在庫もそろえなければならない。だが、山のように新刊が出るこのご時勢、新流派用のスペースなんて無い。どーしたものか。ケータイ小説単行本を返品するか。海外文庫をちょっと返品か。